Confirmé
人口動態変化に関する政治家のコメント
12 mars 2024
監督委員会は、フランスの政治家エリック・ゼムール氏がヨーロッパとアフリカの人口動態変化について語る動画クリップを残すMetaの決定を支持しました。
概要
監督委員会は、フランスの政治家エリック・ゼムール氏がヨーロッパとアフリカの人口動態変化について語る動画クリップを残すMetaの決定を支持しました。このコンテンツは、人種、民族、国籍などの保護特性に基づいて人々を直接的に攻撃するものではないため、ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定に違反していません。委員会の多数派は、このコンテンツを残すことがMetaの人権保障責任に沿うものであると判断します。一方で、委員会は、移民関連の議論と、移民のステータスに基づいて人々を標的とする有害な言論(憎悪に満ちた陰謀論を含む)をどのように区別するかを公に明らかにするようMetaに勧告します。
事例の内容
2023年7月、フランスの政治家エリック・ゼムール氏の公式Facebookページに、そのページの管理者であるユーザーによってある動画クリップが投稿されました。この動画クリップでは、ゼムール氏がヨーロッパとアフリカの人口動態変化について語っています。この動画クリップは、ゼムール氏への長尺インタビュー動画の一部です。この動画で、ゼムール氏は、「Since the start of the 20th century, there has been a population explosion in Africa」(20世紀に入ってから、アフリカでは人口が爆発的に増加している)と述べています。そして、ヨーロッパの人口は約4億人でほぼ変わらないのに対してアフリカの人口は15億人に増えたため、「so the power balance has shifted」(パワーバランスが変化した)と主張しています。フランス語で書かれた当該投稿のキャプションでは、1900年代「when there were four Europeans for one African, [Europe] colonized Africa」(アフリカ人1人に対してヨーロッパ人4人の比率だったときに(ヨーロッパが)アフリカを植民地化した)のが、今や「there are four Africans for one European and Africa colonizes Europe」(ヨーロッパ人1人に対してアフリカ人4人の比率となっており、アフリカがヨーロッパを植民地化している)と述べられています。ゼムール氏のFacebookページのフォロワー数は約30万人で、この投稿は2024年1月現在で約4万回再生されました。
ゼムール氏は、人種的憎悪を扇動し、イスラム教徒、アフリカ人、黒人について人種侮辱的な発言をしたとして、フランスで複数の法的手続きの対象となり、複数の有罪判決を受けました。2022年には大統領選に出馬しましたが、第1回投票で敗北しました。ゼムール氏の選挙運動の中心は、移民やマイノリティコミュニティの発展によって白人系ヨーロッパ人の人口が民族的および文化的に意図的に置き換えられていると主張する、グレート・リプレイスメント理論です。言語学の専門家は、この理論やそれに関連する用語は「移民、非白人のヨーロッパ人、特にイスラム教徒を標的とした人種差別、憎悪、暴力を扇動する」ものであると指摘しています。当該投稿の動画では、この理論については特に触れられていません。
2人の利用者が当該コンテンツをMetaのヘイトスピーチに関するポリシーの違反で報告しましたが、どちらの報告も48時間以内に審査に優先されなかったため、自動的に終了となりました。報告は、Metaの自動システムによって、予想される違反の重大度、コンテンツのバイラリティ(閲覧数)、および違反の可能性に基づいて優先順位が付けられます。2人の利用者うち1人がMetaに異議を申し立てたところ、Metaの審査担当者の1人が当該コンテンツは同社のルールに違反しないと判断しました。これを受け、当該利用者は委員会に異議を申し立てました。
主な調査結果
委員会の多数派は、当該コンテンツがMetaのヘイトスピーチに関するコミュニティ規定に違反しないと結論付けます。この動画クリップは、(物議を醸す可能性はあるものの)移民についての保護された意見表明の一例を含むものであり、暴力を呼びかけるものでも、社会的に弱い立場にあるグループに対して人間性を否定するような発言や差別的な発言を直接投げかけるものでもありません。ゼムール氏は過去に憎悪的な言葉を使用したことで起訴されたことがあり、この動画のテーマもグレート・リプレイスメント理論に類似しますが、これらの事実はMetaの規定を違反していない投稿の削除を正当化するものではありません。
当該投稿を違反とするには、投稿に「直接的な攻撃」、具体的には「保護特性」を持つグループを「排除したり差別したりするような呼びかけ」が含まれていなければなりませんでした。ゼムール氏のコメントには直接的な攻撃は含まれておらず、ヨーロッパから特定のグループを排除するような明示的な呼びかけも、有害な固定観念や中傷、その他の直接的な攻撃に相当するアフリカ人についての発言もないため、Metaのヘイトスピーチに関するルールに違反していません。また、ポリシーの基本理念ではMetaが「移民政策に対する評論や批判」を許可していることが明示されています。ただし、移民政策を議論する際の排除の呼びかけが許容されるとは公には共有されていません。
しかし、委員会は、国籍、人種、宗教がMetaのポリシーおよび国際人権法の両方で保護されているという事実を考慮すると、Metaがアフリカ人を保護特性を持つグループとみなしていないことを懸念しています。アフリカ人は当該コンテンツのいたるところで言及されており、この動画の中では非白人のアフリカ人を指すものとして使われています。
委員会はまた、危険な団体および人物に関するポリシーと本事例との関係性についても検討しました。しかし、委員会の多数派は、より広範な暴力を誘発する陰謀ネットワークの一部として当該投稿を審査するには十分な要素がないため、当該投稿はこのポリシーには違反しないと判断しました。Metaはこのようなネットワークを、同じミッションステートメントを共有し、社会的問題や政治的問題の背景には有力な主体による秘密の陰謀があるという根拠のない理論を推進する、オフラインでの危害に直接つながっている非国家的主体と定義しています。
委員会の少数派は、有害な陰謀論を広めるコンテンツに対するMetaのアプローチが、オンラインとオフラインの両方において保護されるべきマイノリティに影響を与える排除の環境を防ぐために策定したポリシーの目的と矛盾していると考えます。これらのポリシーのもとでは、他の特定の陰謀論を伴うコンテンツは、脅かされているマイノリティグループを保護するためにモデレーションされます。これらの委員会メンバーが移民などの問題に対する批判は許可されるべきであると考える一方で、このトピックに関する証拠に基づく議論が非常に重要であるからこそ、グレート・リプレイスメント理論のような陰謀論が広まることは有害になり得ます。個々のコンテンツではなく、そのようなコンテンツが大規模かつ高速に共有されることによる複合的な影響こそが、ソーシャルメディア企業にとって最大の課題です。したがって、Metaは、オンラインおよびオフラインでの危害を引き起こす陰謀論を推進する者によって同社のサービスが悪用されないよう、ポリシーを再構築する必要があります。
Metaは、憎悪に満ちた陰謀論に対処できるようなポリシーの規定について調査を実施しましたが、これは最終的にはあまりにも多くの政治的発言を削除することにつながると判断しました。委員会は、このプロセスについてMetaが共有した情報が不足していることを懸念しています。
監督委員会の決定
監督委員会は、当該投稿を残すというMetaの決定を支持します。
委員会は、Metaが次の対応をするよう勧告します。
- 移民関連の議論と、移民のステータスに基づいて人々を標的とする有害な発言をどのように区別するかについて、ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定の文言に詳細な説明を加えること。これには、憎悪に満ちた陰謀論を広めるコンテンツをMetaがどのように扱うのかについての説明も含まれます。これによって、利用者は、Metaがどのようにして、このような陰謀論がもたらす恐れのあるオフラインでの危害に対処しながら移民に関する政治的発言を保護するのかについて理解することができます。
*事例の概要はその事例の要約であり、先例としての価値はありません。
事例に関する決定の詳細
1. 決定の概要
監督委員会は、ヨーロッパとアフリカにおける人口動態変化について語るフランスの政治家エリック・ゼムール氏のインタビュー動画を含むゼムール氏の公式Facebookページの投稿を維持するというMetaの決定を支持します。委員会は、当該コンテンツは、人種、民族、国籍などの保護特性に基づいて人々を直接的に攻撃するものでないため、Metaのヘイトスピーチに関するコミュニティ規定に違反していないと判断します。委員会の多数派は、当該コンテンツをFacebookに維持するというMetaの決定は、同社の人権保障責任に則っていると判断します。委員会メンバーの少数派は、グレート・リプレイスメント理論のような有害で排他的な陰謀論がもたらす重大な脅威に対処するというMetaの人権責任を果たすには同社のポリシーが不十分であると考えています。委員会は、有害な陰謀論がもたらす潜在的なオフラインでの危害に対処しながらも移民に関する言論を保護する必要性を考慮して、憎悪に満ちた陰謀論を広めるコンテンツをどのように扱うのかを公に明らかにするようMetaに勧告します。
2. 事例の説明と背景
2023年7月7日、ある利用者がフランスの政治家エリック・ゼムール氏の認証済みの公式Facebookページに動画を投稿しました。この動画はフランス語で実施された長尺インタビューの50秒のクリップで、その中でゼムール氏はヨーロッパとアフリカの人口動態変化について語っています。この動画を投稿した利用者はこのページの管理者で、ページのフォロワー数は約30万人です。ゼムール氏は2022年フランス大統領選挙の候補者で、第1回投票で約7%の票を獲得しましたが、その先の投票には進めませんでした。出馬前、ゼムール氏は、ル・フィガロなどの新聞のレギュラーコラムニストであり、イスラム教徒、移民、女性に関する挑発的な発言で有名なテレビコメンテーターでもありました。以下に詳しく説明するとおり、ゼムール氏はこれらの発言のために複数の法的手続きに関与し、そのいくつかで有罪判決を受けました。Metaはこの動画を投稿した利用者を公人・著名人とはみなしませんでしたが、ゼムール氏を公人・著名人とみなしました。
当該動画で、ゼムール氏は、「Since the start of the 20th century, there has been a population explosion in Africa」(20世紀に入ってから、アフリカでは人口が爆発的に増加している)と述べています。そして、ヨーロッパの人口は約4億人でほぼ変わらないのに対してアフリカの人口は15億人に増えたため、「so the power balance has shifted」(パワーバランスが変化した)と主張しています。フランス語で書かれたキャプションでは動画における主張を繰り返し、1900年代「when there were four Europeans for one African, [Europe] colonized Africa」(アフリカ人1人に対してヨーロッパ人4人の比率だったときに(ヨーロッパが)アフリカを植民地化した)のが、今や「there are four Africans for one European and Africa colonizes Europe」(ヨーロッパ人1人に対してアフリカ人4人の比率となっており、アフリカがヨーロッパを植民地化している)と述べられています。これらの数字は、以下に示す国連機関による数字と同程度のものです。さらに、これらの数字に関する委員会の多数派の意見は、以下のセクション8.2で詳しく説明されています。
2023年11月28日に委員会によって本事例が発表された時、当該コンテンツの閲覧数は約2万回でした。2024年1月現在、当該コンテンツの閲覧数は約4万回、リアクション数は1,000未満で、その大多数が「いいね!」、次いで「超いいね!」、「うけるね」でした。
2023年7月9日、2人の利用者が別々に、Metaのヘイトスピーチに関するポリシーの違反として当該コンテンツを報告しました。これらの報告はどちらも、48時間以内に審査に優先されなかったため、自動的に終了となりました。Metaの説明によると、報告は、予想される違反の重大度、コンテンツのバイラリティ(コンテンツの閲覧数)、およびコンテンツが同社のポリシーに違反する可能性などの要素に基づいて、動的に審査の優先順位が付けられます。当該コンテンツは削除されず、プラットフォームに維持されました。
2023年7月11日、当該コンテンツを報告した1人目の利用者が、Metaの判断に対して異議を申し立てました。異議申し立ては審査担当者によって評価されましたが、この審査担当者はコンテンツを維持するというMetaの当初の決定を支持しました。これを受けて、報告者である利用者は監督委員会に異議を申し立てました。
当該コンテンツが投稿される10日前、2023年6月27日にパリ郊外でモロッコおよびアルジェリア系フランス人である17歳のナヘル・メルズーク少年が警官2人に至近距離から撃たれて死亡した事件は、フランス国内で広範な暴動と暴力的抗議デモを引き起こしました。この抗議デモは、警察による暴力と、フランスにおける取締りの制度的人種差別に向けられたもので、当該コンテンツの投稿時も続いていました。これらの抗議デモは、フランスのアフリカ系移民やその他社会的に疎外されたコミュニティを標的にすることが多いとされる、警察の暴力に対する長期にわたる抗議活動で最も最近起きたものでした。
人種主義と不寛容に反対する欧州委員会(ECRI)によると、フランスにおける人種差別の主な被害者は移民、特にアフリカ系移民とその子孫です。2022年、人種差別撤廃委員会(CERD)は、人種差別的なヘイトスピーチを効果的に防止し、撲滅するための取り組みを倍増するようフランスに強く求め、「締約国の努力にもかかわらず...委員会は、特にメディアやインターネットにおいて、人種主義的で差別的な議論がいかに根強く広まっているかに依然として懸念を抱いている」と述べました。またCERDは、「特定の少数民族、特にロマ人、トラベラー、アフリカ人、アフリカ系住民、アラブ系住民、非市民に関する、一部の政治指導者による人種差別的発言に懸念」を抱いています(CERD/C/FRA/CO/22-23、第11項)。
国連経済社会局の1999年の報告書によると、1900年のアフリカの推定人口は1億3300万人でした。2022年に国連が発表したデータによると、2021年のアフリカの人口は約14億人でした。また、2050年には、アフリカの人口は25億人近くになると予想されています。同じ1999年の報告書によると、1900年のヨーロッパの人口は約4億800万人でした。国連経済社会局の推計によると、2021年のヨーロッパの人口は約7億4500万人で、2050年には約7億1600万人に減少します。
世界の多くの地域と同様、フランスでも、外国からの大量の移民の流入が政治的議論の最も重要なトピックの1つとなっています。2023年9月現在、フランスにはおよそ70万人の難民と亡命希望者がおり、欧州連合で3番目に大きな受け入れ国となっています。委員会が本事例を審査した時、フランスでは、移民枠を設定し、家族の呼び寄せや社会保障の享受に関する規則を強化する新移民法案が議会で可決されるなか、移民に関する大規模な抗議デモと激しい国民的議論が起こっていました。ゼムール氏とその党は、このような議論に積極的に関与し、移民の制限を支持してきました。
ゼムール氏は、近年、イスラム教徒、アフリカ人、黒人、LGBTQIA+の人々に関する発言の結果、人種的憎悪を煽り人種侮辱的な発言をしたとして、複数の法的手続きの対象となり、フランスの裁判所から複数の有罪判決を受けました。ゼムール氏は、2011年にテレビで「most dealers are blacks and Arabs. That's a fact」(大半の売人は黒人かアラブ人であり、これは事実だ)と発言したことで人種的憎悪の扇動で有罪判決を受けました。さらに最近、裁判所は、2020年にゼムール氏が子どもの移民は「thieves, killers, they’re rapists. That’s all they are. We should send them back」(泥棒で、殺人者で、強姦者だ。それしかない。送り返すべきだ)と発言したことで人種的憎悪を扇動した罪で有罪とし、1万ユーロの罰金を科しました。ゼムール氏は、フランスのイスラムコミュニティに対する差別と宗教的憎悪を扇動したとして、矯正裁判所から有罪判決を受け、罰金を科せられた別の事件で、控訴権を使い果たしました。この有罪判決は、2016年にゼムール氏がテレビ番組で行った、イスラム教徒に「the choice between Islam and France」(イスラムかフランスかの選択)を与えるべきであり、「for thirty years we have been experiencing an invasion, a colonization (…) it is also the fight to Islamize a territory which is not, which is normally a non-Islamized land」(30年もの間、我々は侵略、植民地化を経験してきた(…)それは、通常イスラム化されていない領土をイスラム化する戦いでもある)との発言に基づいています。2022年12月、欧州人権裁判所は、その有罪判決はゼムール氏の表現の自由の権利を侵害するものではないと判断しました。
本事例における当該コンテンツはグレート・リプレイスメント理論について明確に言及してはいないものの、この概念はゼムール氏の政治イデオロギーの中核であり大統領選挙キャンペーンで大きく取り上げられました。キャンペーン中、ゼムール氏は、当選した場合、「Ministry of Remigration」(再移民省)を創設すると公約しました。また、5年以内に外国人を「send back a million」(100万人送り返す)とも述べました。陰謀論とフランス政治、ソーシャルメディア動向、および言語学の専門家が実施した委員会委託の独立調査によると、グレート・リプレイスメント理論の支持者は、白人系ヨーロッパ人の人口が、移民やマイノリティコミュニティの発展によって、民族的および文化的に意図的に置き換えられていると主張しています。そして、ヨーロッパ以外の国(主にアフリカとアジア)の非白人(主にイスラム教徒)によるヨーロッパへの現代の移住は、人口戦争の一形態であると主張しています。委員会の専門家は、移民と移民の増加は事実上の争点になっていないことを強調しました。むしろ、白人人口に取って代わったりその割合を減らしたりするために、ヨーロッパに非白人を連れてくるという陰謀や謀略が実際に存在すると主張することこそが、グレート・リプレイスメント理論を陰謀的なものにしています。委員会が意見を求めた言語学の専門家は、グレート・リプレイスメント理論やそれに関連する用語は「移民、非白人のヨーロッパ人、特にイスラム教徒を標的とした人種差別、憎悪、暴力を扇動する」ものであると説明しました。欧州連合のRadicalization Awareness Networkによる報告は、グレート・リプレイスメント理論を提唱する人々によって広められた反ユダヤ、反イスラム、そして全体的な反移民の感情が、近年ヨーロッパで注目を浴びた複数の単独攻撃者による標的の選定に影響を与えていると指摘しています。委員会の委託による調査でも、51人のイスラム教徒が殺害されたニュージーランドのクライストチャーチでの銃乱射事件など、近年この理論が世界中で無数の暴力事件を引き起こしていることが指摘されています。
委員会の少数派は、フランスでこの1年間、暴力的な極右デモが増加していることも重要な背景だと考えています。フランスの農村部のクレポルで11月18日、パーティーの最中に10代の若者が刺殺された事件を受けて、活動家や右翼政党が暴力的な抗議行動を起こし、抗議者たちは警察と衝突しました。この刺殺事件に関連して逮捕された9人のうち、8人がフランス人、1人がイタリア人であったにもかかわらず、抗議者たちは移民やマイノリティに責任があると主張しました。ジェラルド・ダルマナン内務大臣は、民兵のメンバーは「seek to attack Arabs, people with different skin colors, speak of their nostalgia for the Third Reich」(アラブ人や肌の色の違う人々を攻撃しようとし、第三帝国への郷愁を語っている)と述べました。フランス緑の党の政治家サンドリーヌ・ルソー氏は、これらの抗議行動を、少数民族や社会集団(主に北アフリカ系の人々)に対する身体的暴力であるラトナード(ratonnade)と比較しました。最もよく知られているラトナードは、1961年10月17日、アルジェリア人による平和的な抗議行動の最中に発生しました。この時、警察の暴挙によって200人のアルジェリア人が殺害され、この事件はラトナードという用語の普及と関連付けられることがよくあります。それ以降、この用語はフランスのさまざまな文脈で繰り返し使われるようになりました。例えば、2022年12月、フランスの政治家たちは、ソーシャルメディアユーザーたちとともに、フランス対モロッコのワールドカップの試合後の街頭での暴力をラトナードと比較して非難しました。
3. 監督委員会の権限と範囲
委員会には、プラットフォームに残されたコンテンツを以前に報告した利用者からの異議申し立てを受けて、Metaの決定を審査する権限があります(憲章第2条第1項、定款第3条第1項)。
委員会は、Metaの決定を維持するか、または無効とすることができ(憲章第3条第5項)、この決定は同社に対して拘束力があります(憲章第4条)。Metaは、類似した文脈にある同一のコンテンツについて、委員会の決定の適用が実現可能かどうかについても評価しなければなりません(憲章第4条)。委員会の決定には、拘束力のない勧告を含めることができ、Metaはこれに回答しなければなりません(憲章第3条第4項、第4条)。Metaが勧告に基づき行動することを約束する場合、委員会はその実施をモニタリングします。
4. 先例および指針の資料
本事例における委員会の分析は、次に掲げる基準および先例に基づいて行われました。
I. 監督委員会の決定
II. Metaのコンテンツポリシー
ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定のポリシーの基本理念では、保護特性に基づいて人々を直接攻撃することと定義されるヘイトスピーチは、「他者を脅迫したり排除したりする環境を生み出し、場合によっては現実世界での暴力行為を促すおそれ」があるためプラットフォームで許容されないことが説明されています。同ポリシーでは、人種、民族、国籍、宗教などを保護特性として挙げています。同ポリシーでは、「攻撃は重大度によって2つのレベルに分類され」、レベル1の攻撃の重大度がより高くなります。また、ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定のポリシーの基本理念では、同ポリシーは「難民、出稼ぎ労働者、移民、亡命希望者を最も深刻な攻撃から保護」するが、「移民政策に対する評論や批判」は認められると説明されています。Metaのコンテンツモデレーター向けの内部指針はこの点について詳しく述べており、移民、移住者、難民、亡命希望者のステータスを準保護の対象とみなすと説明しています。つまり、Metaは、これらの人々をヘイトスピーチに関するポリシーに基づくレベル1の攻撃からは保護するが、レベル2の攻撃からは保護しないということになります。
このポリシーは、以前は攻撃のレベルが3段階あったのが、現在は2段階になりました。現在レベル2の攻撃として、とりわけ、「行動の呼びかけ、意図の表明、願望や条件付きの発言、あるいは擁護もしくは支援する発言の形式をとる排除や差別で、次のように定義される[...]特定のグループを追い出したり受け入れないと言ったりするなどといった露骨な排除」を禁止しています。Metaは、この点に関するコンテンツ審査担当者向けの内部指針についてさらなる情報の公開を求める委員会の要求を拒否しました。
2017年のニュースルーム投稿「困難な問題: グローバルなオンラインコミュニティにおけるヘイトスピーチの判断」(ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定のポリシーの基本理念の一番下に「Facebookのヘイトスピーチへのアプローチについて、詳しくはこちらをご覧ください」というテキストでリンクされている)で、Metaは、移民政策をめぐる議論は「双方が扇動的な言葉を使用するため、ヘイトスピーチをめぐる論争」に発展することがよくあることを認識しています。同社は、全世界で移民に関するFacebook上の投稿を審査した結果、「移民に対する暴力の呼びかけや、移民を動物や汚物、ゴミに例えるなど人間性を否定するような表現を削除する新しいガイドラインを策定することを決定した」と述べました。しかし、同社は、「Facebookが正当な議論の場となるように熱心に努めている」として、「人々が移民に関する意見を表明すること自体は可能」であるとしています。
危険な団体および人物
危険な団体および人物に関するコミュニティ規定のポリシーの基本理念には、暴力的な使命を掲げる団体や個人、または暴力行為に関わる団体や個人がMetaのプラットフォームを利用することは認められないことが記載されています。また、Metaでは、このような個人・団体を、「オンラインおよびオフラインでの行動、特に暴力とのつながりに基づいて評価」していることが説明されています。
危険な団体および人物に関するコミュニティ規定は、暴力を誘発する陰謀ネットワークがMetaのプラットフォーム上で活動することを禁止しています。暴力を誘発する陰謀ネットワークとは、現在、(i)「特定の名前、ミッションステートメント、シンボル、または業界用語により識別される」、(ii)「2人以上の有力な主体による秘密の陰謀を主張して、重大な社会的および政治的問題、出来事、状況の最終的原因を説明しようと根拠のない理論を推進する」、および(iii)「ネットワークが推進する根拠のない理論で特定されると考えられる危害への注意を引く、または修正しようとする支持者によって行われる、オフラインでの身体的危害行為を明らかに擁護している、またはそのような行為に直接つながっている」非国家的主体と定義されています。
委員会は、Metaが「何よりも大切にしている」とする意見に対する取り組みと、Metaが重んじる安全性および尊厳の価値観も基にしてコンテンツポリシーを分析しました。
III. Metaの人権保障責任
国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、国連人権理事会により2011年に採択された、人権に関して民間企業が負う責任について自主的な枠組みを定めた基準です。Metaは2021年、企業人権ポリシーを発表しました。同ポリシーで、MetaはUNGPsに従って人権を尊重することへの約束を再確認しました。委員会は、本事例での人権に対するMetaの責任について、次に掲げる国際基準に基づき分析しました。
- 表現の自由の権利: 市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第19条、ICCPR第20条第2項、規約人権委員会の一般的意見34 (2011年)、意見及び表現の自由に関する国連特別報告者(UNSR)報告書: A/HRC/38/35 (2018年)、A/74/486 (2019年)
- 平等と差別禁止: ICCPR第2条第1項および第26条、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(ICERD)第2条、国際連合総会決議A/RES/73/195
- 生命に対する権利: ICCPR第6条
5. 利用者からの陳述書の提出
当該コンテンツを報告した後そのコンテンツを維持するというMetaの決定に異議を申し立てた利用者は、委員会への異議申し立ての一貫として、委員会に陳述書を提出しました。異議を申し立てたこの利用者は、陳述書で、ゼムール氏が植民地化と移住の両方を人口過剰という観点だけで説明していると述べており、これを「fake news」(フェイクニュース)と分類しています。
6. Metaからの情報提供
委員会が本事例を選択した後、Metaは、専門家を交えてヘイトスピーチに関するポリシーに照らして当該投稿を審査し、当該コンテンツを残すという当初の決定は正しかったと判断しました。Metaは、この追加審査を行った専門家の具体的な権限や知識分野についての詳細情報を提供しませんでした。Metaは、コンテンツが違反とみなされるためには保護特性を持つグループと直接的な攻撃の両方が必要であり、人口の変化と植民地化に関する主張にはそれらの要素が欠けていると強調しました。Metaは、あるグループがある場所を「植民地化」しているという主張自体は、それが排除の呼びかけにならない限り、攻撃とはみなさないと説明し、「市民が自国の法律や政策について議論することは、その議論がそれらの法律の対象となる可能性のある社会的に弱い立場にあるグループに対する攻撃とならない限り許可したい」と強調しました。最後に、Metaは、ゼムール氏は「アフリカ」(大陸とその国々)に言及しているため当該コンテンツは保護特性を持つグループを特定するものではなく、また、「ヘイトスピーチに関するポリシーは国または組織を攻撃から保護するものではない」と説明しました。
Metaは、有害な陰謀論に関する同社のポリシー策定プロセスに関連する守秘義務の解除を拒否しました。Metaは、「他の点では既存のポリシーに違反しない陰謀論について議論するコンテンツに特化したポリシーの選択肢を検討しましたが、当面の間は、どの選択肢を実施しても、かなりの量の政治的発言が削除される危険性があるとの結論に達した」と述べました。
委員会はMetaに書面で8件の質問をしました。質問は、グレート・リプレイスメント理論に関連するMetaのポリシー策定、ヘイトスピーチおよび危険な団体および人物に関するポリシーのさまざまな規定の適用可能性、Facebookページと投稿者の違反履歴に及びました。Metaは、委員会の質問のうち6つに回答しましたが、残りの2つには十分な回答をしませんでした。グレート・リプレイスメント理論に関連するポリシー策定に関する委員会の最初の質問に対してMetaは十分な詳細を提供しなかったため、委員会はフォローアップの質問を行い、それに対してMetaは、包括的とはいえない追加の情報を提供しました。
7. パブリックコメント
監督委員会には15件のパブリックコメントが寄せられました。これらのコメントのうち7件は米国およびカナダから、3件はヨーロッパから、2件は中央・南アジアから、1件は中東・北アフリカから、1件はアジア太平洋・オセアニアから、1件はサハラ以南アフリカから寄せられたものでした。この合計には、重複していた、または公開への同意ありで提出されたが委員会の公開条件を満たしていなかったパブリックコメントが含まれます。パブリックコメントは、公開への同意や氏名等の表示の同意(匿名性)に関係なく提出できます。
提出された意見では、主に次の2つのテーマが取り上げられていました。1つ目として、いくつかのコメントは、本事例で審査の対象となったコンテンツを削除することは検閲と同じであり、「自分たちの声を聞いてもらえないと感じる市民の怒りを増大させる」(PC-22009)ことにさえなりかねないと強調していました。2つ目として、2つの団体が、この種のコンテンツ、特にグレート・リプレイスメント理論がオフラインに与える悪影響を強調するコメントを提出しました。これらのコメントはいずれも、クライストチャーチの大虐殺とグレート・リプレイスメント理論との間に関連性があると主張しています(Digital Rights Foundationによって提出されたPC-22013、Global Project Against Hate and Extremismによって提出されたPC-22014)。
本事例に関して提出されたパブリックコメントを読むにはこちらをクリックしてください。
8. 監督委員会による分析
委員会は、本事例のコンテンツを削除すべきか否かを判断するにあたり、Metaのコンテンツポリシー、人権保障責任および同社が重んじる価値観を分析しました。また、コンテンツガバナンスに対してMetaが取るより広いアプローチに関して、本事例が意味するところについても評価しました。
委員会は、特に移民政策を議論する政治的言論と有害なコンテンツを大規模に区別することの難しさを考慮して、世界的に反移民的なレトリックが高まり、移民政策に関する公共の議論が加熱する中で移民を標的とするコンテンツに対するMetaのアプローチを見直す機会として、本事例を選択しました。
8.1 Metaのコンテンツポリシーへの準拠
委員会は、当該コンテンツがMetaのポリシーに違反するものではないと結論づけました。したがって、Facebookにコンテンツを残すというMetaの決定は正しいものでした。しかし、委員会の少数派は、Metaのポリシーにおいて、移民政策に対する最も厳しい批判でさえも、保護特性を持つグループ対する有害な陰謀論に関わる発言と明確に区別することができると考えます。
I. コンテンツルール
ヘイトスピーチ
委員会の多数派は、本事例のコンテンツはMetaのヘイトスピーチに関するコミュニティ基準に違反せず、実際、賛否両論はあるものの、移民というトピックに関して保護されるべき意見表明の一例であると結論づけました。利用者が投稿したゼムール氏のインタビューの50秒の動画クリップは、暴力を呼びかけるものでも、社会的に弱い立場にあるグループに対して人間性を否定するような発言や差別的な発言を直接投げかけるものでもありません。ゼムール氏が過去に憎悪的な言葉の使用で起訴され有罪判決を受けたという事実や、当該投稿のテーマが、移民やマイノリティグループの人々に対する暴力を引き起こしたと多くの人が信じているグレート・リプレイスメント理論のテーマと類似しているという事実は、Metaの規定に違反していない投稿を削除する正当な理由にはなりません。このポリシーでは、コンテンツが違反とみなされるためには、(i)「直接的な攻撃」と、(ii)直接的な攻撃の対象となる「保護特性」を持つグループの2つの要素が必要です。上記セクション4で詳しく説明したとおり、Metaは、「直接的な攻撃」を、他の種類の言論の中でも「行動の呼びかけの形式をとる排除または差別」と定義しています。さらに、ポリシーの基本理念では、「移民政策に対する評論や批判」は認められると明確に記載されています。
多数派にとって、この動画におけるゼムール氏の発言は、アフリカ、ヨーロッパ、および「植民地化」に関する、想定される人口統計の情報が中心です。動画には、「So the balance of power has reversed」(パワーバランスが逆転した)、「When there are now four Africans for one European, what happens?Africa colonizes Europe, and in particular, France」(ヨーロッパ人1人に対してアフリカ人が4人になったらどうなるか?アフリカはヨーロッパ、特にフランスを植民地化する)といった発言が含まれています。ゼムール氏のコメントには直接的な攻撃は含まれていません。また、実際に「グレート・リプレイスメント理論」というフレーズを使用しておらず、この理論に直接言及しているわけでもありません。ヨーロッパから特定のグループを排除するような明示的な呼びかけも、有害な固定観念や中傷、その他の直接的な攻撃に相当するアフリカ人についての発言もありません。しかし、委員会は、国籍、人種、宗教がMetaのポリシーおよび国際人権法の両方で保護特性であるという事実を考慮すると、Metaがアフリカ人を保護特性を持つグループとみなしていないことを懸念しています。アフリカ人は当該コンテンツの至るところで言及されています。アフリカは国家の集合体であり、したがって「アフリカ人」とはアフリカ諸国の国民を指します。また、ゼムール氏のフランスの移民についての過去の発言や議論の文脈では、「アフリカ人」という言葉は、非白人のアフリカ人、特に黒人やイスラム教徒のアフリカ人を指すものとして使われています。
危険な団体および人物
また、委員会の多数派は、より広範な、暴力を誘発する陰謀ネットワークの一部としてこの特定のコンテンツを審査するのに必要な要素がないことを考慮して、当該コンテンツはMetaの危険な団体および人物に関するポリシーに違反していないと結論付けました。
上記のセクション6で説明したとおり、Metaは、他の点ではどのポリシーにも違反しない陰謀論について議論するコンテンツに特化したポリシーの選択肢を検討しましたが、当面の間は、どの選択肢を実施しても、かなりの量の政治的発言が削除される危険性があるとの結論に達しました。委員会は、このポリシー策定プロセスに関する委員会の質問に対してMetaが提供した情報が不足していることに懸念を表明します。委員会は、同社が実施した調査、収集した情報、アウトリーチの範囲、意見を求めた専門家の種類、分析したポリシーの選択肢に関する具体的な情報を提供しなかったことを指摘します。委員会はまた、Metaがポリシー策定プロセスとその結果に関する情報を一般に共有しないことを選択したことも懸念しています。
委員会の少数派は、当該コンテンツが複数の重複する保護特性を持つグループ(黒人、アラブ人、イスラム教徒)を暗示的に標的としているにもかかわらず、Metaのヘイトスピーチに関するポリシーと危険な団体および人物に関するポリシーに含まれる規定の現在の表現では、このようなコンテンツは禁止されないと理解しています。しかし当該投稿が「グレート・リプレイスメント理論」の比較的「容認できる」部分だけを繰り返しているという事実は、決定的なものではありません。トランプ前大統領のアカウント停止の事例における委員会の決定で、委員会は、Metaは「影響力のある利用者の投稿を、その投稿がどのように受け取られる可能性が高いかという観点に沿って、文脈を踏まえて評価しなければなりません。たとえその投稿の煽情的なメッセージが…責任を回避するための言葉で表現されていたとしても同様です」と強調しました。
それにもかかわらず、セクション8.3でより詳しく説明されるように、委員会の少数派にとって、グレート・リプレイスメント理論のような有害な陰謀論を広めるコンテンツに対するMetaのアプローチは、オンラインおよびオフラインでの危害から保護されるマイノリティに影響を与える脅迫と排除の環境が生み出されないようにするために同社が策定したさまざまなポリシーの目的と矛盾しています。委員会の少数派はMetaのポリシーが民主主義社会に関連するあらゆる問題(移民問題など)についての批判や議論を許容すべきであることに強く同意しますが、Metaは、グレート・リプレイスメント理論のような特定の陰謀論がもたらすオフラインでの危害を考慮して、社会的に弱い立場にあるグループに対する暗示的または明示的な攻撃の拡散を防ぐための明確な規定を設けるべきです。
II. 透明性
Metaは、透明性センターのヘイトスピーチに関するコミュニティ規定のもとで、同社が移民関連のコンテンツをどのように扱うかに関するインサイトを提供しており、その中で、難民、移民、移住者、亡命希望者は最も深刻な攻撃から保護されていると説明しています。ヘイトスピーチに関するポリシーの基本理念からリンクされている2017年のニュースルーム投稿で、Metaは追加の詳細を提供しています。しかし、グレート・リプレイスメント理論に関連するコンテンツをどのように扱うかは明示的に説明していません。この2017年の投稿にはこのトピックに関連する情報が記載されていますが、上記セクション6で言及した2021年のポリシー策定プロセス以降は更新されていません。Metaはまた、移民に関する議論の文脈で排除を呼びかけることが許可されることを、公に向けたポリシーの中では明確に説明していません。また、この文脈における暗示的または遠まわしな攻撃への対処方法も明確ではありません。
8.2 Metaの人権保障責任の遵守
委員会の多数派は、当該コンテンツを残すことはMetaの人権保障責任に沿うものであると判断します。少数派は、Metaは同社の人権保障責任を果たすために、オンラインおよびオフラインでの危害を引き起こす陰謀論を推進する者によって同社のサービスが悪用されないようポリシーを再構築する必要があると考えます、
表現の自由(ICCPR第19条)
ICCPRの第19条は、「政治的言論」や「公共問題」についての批評を含む「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」を含む、表現の自由の権利の広範な保護を定めています(一般的意見34、第11項)。規約人権委員会は、この権利の範囲は、他者の権利や評判を保護するため、あるいは差別、敵意、暴力の扇動を禁止するため「第19条第3項および第20条の規定に従って制限されることはあるものの、非常に不快とみなされる表現も包含する」と述べています(一般的意見34、第11項)。
移民に関する公共の議論の文脈において、国連総会は、「開かれた自由な議論が移民のあらゆる側面に関する包括的な理解に役立つことを認識し、国際法に従って表現の自由を保護する」という姿勢に言及しました。さらに、「移民と移住者に関して、社会のあらゆる部分と連携して、より現実的で人道的かつ建設的な認識を生み出す、開かれた証拠に基づく公共の議論を推進する」ことを表明しました(A/RES/73/195、第33項)。フランスだけでなく世界的に論争の的となり政治的プロセスと密接な関係がある、移民問題やその関連政策は、Metaのプラットフォームで議論される正当なトピックです。委員会の多数派にとって、公共の議論への潜在的な影響を考慮すると、Metaのプラットフォームでこの種の言論を禁止することは、表現の自由の明確な侵害であり、危険な前例となります。委員会の少数派にとって、移民についての開かれた証拠に基づく議論は民主主義社会にとって非常に重要であるからこそ、グレート・リプレイスメント理論のような陰謀論がソーシャルメディアプラットフォームで拡散することは非常に有害になり得ます。戦略的対話研究所(Institute for Strategic Dialogue)の報告にあるとおり、この理論を広めるために使われる手法には、「人間性を否定するような人種差別的なミーム、人口統計データを歪めるまたは誤って伝えること、否定された科学を使用することが含まれます」。
国が表現を制限する場合、その制限は合法性、正当な目的、および必要性と相応性の各要件を満たさなければなりません(ICCPR第19条第3項)。これらの要件はよく「3要素のテスト」と呼ばれます。委員会は、審査対象であるコンテンツに関する個別の決定、およびこれがコンテンツガバナンスに対するMetaの幅広いアプローチについて示す内容の両方に関して、この枠組みを用い、人権に対するMetaの自主的な取り組みを解釈します。表現の自由に関する国連特別報告者が述べているとおり、「企業には政府と同じ義務はないが、影響力が高いため、ユーザーの表現の自由に対する権利の保護に関して、企業も政府と同様の問題を評価する必要があります」(A/74/486、第41項)。
I. 合法性(規則の明確さとわかりやすさ・閲覧可能性)
合法性の原則により、表現を制限する規則は、容易に閲覧可能かつ明確で、個々が規則に応じて行動を律することができるよう十分正確に策定されなければなりません(一般的意見34、第25項)。さらに、これらの規則は、「表現の自由の制限の施行を担当する者に対して、その制限に関して自由裁量を与えるものであってはならず」、「どういった表現が適切に制限され、どういった表現が制限されないのかを、施行を担当する者が確かめられるよう、十分な指針を提示」しなければなりません(同項)。表現の自由に関する国連特別報告者は、オンラインでの発言を管理する規則に当てはめた場合、当該規則が明確かつ具体的である必要があると述べています(A/HRC/38/35、第46項)。Metaのプラットフォーム利用者は規則にアクセスしてそれを把握できなければならず、コンテンツの審査担当者には適用に関する明確な指針が用意されていなければなりません。
Metaの現在のポリシーには、本事例のコンテンツを「具体的かつ明確に」禁止するものはありません。委員会の多数派にとって、一般の利用者がヘイトスピーチに関するコミュニティ規定または(コミュニティ規定からリンクされている)Metaが2017年に投稿した「困難な問題」のブログを読めば、移民や移住者に対する攻撃は深刻度が最も高いもののみが削除されるという印象を受ける可能性が高いと考えられます。これは、Metaがプラットフォーム上で移民政策に対する論評や批判を許可したいことを明確に示しているからです。委員会の多数派は、この姿勢はMetaの人権保障責任に沿うものであると判断します。少数派にとって、ヘイトスピーチに関するポリシーは、グレート・リプレイスメント理論のような憎悪に満ちた陰謀論が助長する排除や人種差別の環境が生まれるのを防ぐことを目的としています。このような理論に関わるコンテンツが通常、社会的に弱い立場にあるグループやマイノリティグループを標的にし、このような人々の尊厳に対する攻撃となることを考えれば、一般の利用者はMetaのヘイトスピーチに関するポリシーのもとで、この種のコンテンツからの保護を期待することができます。
Metaの現在の危険な団体および人物に関するポリシーには、本事例のコンテンツを禁止する規定はありません。委員会の多数派にとって、たとえMetaが同社のプラットフォーム上でグレート・リプレイスメント理論に関わるコンテンツを具体的かつ明確に禁止していたとしても、本事例のコンテンツは、この理論の名称を挙げたり、その要素を陰謀的かつ有害とみなされるような方法で詳しく説明したりするところまでは至っていません。当該投稿は、特定の人々のグループが関与するヨーロッパへの移民の流入が、隠された計画を持つ主体が関与する秘密の陰謀の一部であるとは主張していません。
II. 正当な目的
表現の自由に対する制限は、「他者の権利」の保護を含む、ICCPRで列挙されている正当な目的の少なくとも1つを追求するものである必要もあります。「『権利』という用語には、ICCPRおよびより一般的な国際人権法で認められている人権が含まれます」(一般的意見34、第28項)。
委員会は、複数の決定において、Metaのヘイトスピーチに関するポリシーが、ヘイトスピーチに起因する危害から人々を守ることを目的としており、国際的な人権法の基準によって認められた正当な目的を追及していると判断しています(クニンに関連するアニメに関する決定を参照)。同ポリシーは、生命に対する権利(ICCPR第6条第1項)、平等に対する権利、および人種、民族、国籍に基づくものを含め差別を受けない権利(ICCPR第2条第1項、ICERD第2条)を保護します。委員会はまた、Metaの危険な団体および人物に関するポリシーが他者の権利を保護するという正当な目的のもと、現実世界における危害を防止し途絶させることを目指すものであることを以前に確認しています(アルジャジーラの投稿のシェアに関する決定を参照)。逆に、委員会は、国際的な人権法が制約なき表現に対して高い価値を置いていることから(一般的意見34、第38項)、個人を不快なコンテンツから保護することのみを目的として表現を制限するのは、正当な目的ではないことを繰り返し指摘してきました(表現の自由に関する国連特別報告者の報告書A/74/486、第24項を引用するズワルトピートの描写に関する事例、トランプ前大統領のアカウント停止を参照)。
III. 必要性と相応性
必要性と相応性の原則は、表現の自由に対するいかなる制限も「その保護機能の達成に適したものでなければならず、その保護機能を達成する可能性がある手段の中で最も干渉性の低いものでなければならず、保護すべき利益に相応でなければならない」(一般的意見34、第34項)と規定しています。Metaのような企業が取り得る対応の性質や範囲は国家が取り得る対応とは異なり、例えば刑事罰と比較して、権利侵害の程度が軽いことが多いです。ソーシャルメディア企業は、自社の人権保障責任の一環として、制限の範囲を狭めるよう、問題のあるコンテンツに対して削除以外のさまざまな対応を検討する必要があります(A/74/486、第51項)。
暴力的である可能性があるコンテンツがもたらすリスクを分析するにあたり、委員会は、ラバト行動計画に記載された6つのパートからなるテストを指針としています。このテストは、差別、敵意、暴力の扇動に対処するものです(OHCHR、A/HRC/22/17/Add.4、2013年)。このテストでは、文脈、発言者、意図、内容と形式、表現が広められた範囲、差し迫った危害の可能性などが考慮されます。
委員会の多数派にとって、本事例のコンテンツの削除は、必要なものでも相応なものでもありません。ラバトテストは、「扇動の重要な要素」として、言論の内容と形式を強調しています。本事例で審査の対象となったコンテンツにおいて、利用者が投稿した50秒のクリップに再現されたゼムール氏のコメントは、グレート・リプレイスメント理論の陰謀的な要素には直接関与しておらず、動画には暴力的または扇動的な画像など、扇動的な要素は含まれていません。また、コメントとキャプションにも暴力や排除の直接的な呼びかけは含まれていません。多数派は、政治的に物議を醸すようなコンテンツを、発言者が別の場所で行った発言を理由に排除することは表現の自由に反すると考えます。ゼムール氏が引用した数字は、わずかにのみ誇張されているというのが多数派の見解です。また、多数派は、動画におけるゼムール氏の発言の主題が、おそらく今日最も重要な政治問題の1つである移民であることにも注目します。
委員会メンバーの少数派にとって、本事例のコンテンツは、Metaの現在のポリシーに違反するものではありません(セクション8.1を参照)。しかし、同社は、保護されるべきマイノリティに対してオンラインで影響を与える(排除されたグループの発言に影響を与える)だけでなくオフラインでも影響を与える排除と脅迫の環境が生み出されるのを防ぐことを目的とした一連のポリシーを策定しています。これらのポリシーのもと、反ユダヤ主義的な表現や白人至上主義的な表現、暴力を誘発する陰謀ネットワークによるコンテンツはモデレーションの対象となります。そのようなコンテンツを削除することは、Metaの人権保障責任に沿うものです。上記セクション2で説明したように、グレート・リプレイスメント理論は、ヨーロッパの白人人口を、主にアフリカやアジアからの移民人口に置き換えるという意図的な企てがあると主張するものです。グレート・リプレイスメント理論の拡散は、移民、非白人のヨーロッパ人、イスラム教徒を標的とした人種差別、憎悪、暴力の扇動を助長しています。委員会の少数派は、それは単なる抽象的な考えや議論の的となる意見ではなく、オンラインおよびオフラインでの危害につながる典型的な陰謀論であることを強調しています。この陰謀論が特定のマイノリティを排除し脅迫する雰囲気を作り出す一因となっていることに疑いの余地はありません。ホロコーストの否認の事例における議論で示した、Metaのプラットフォーム上で反ユダヤ主義的なコンテンツが集合的または累積的に、大規模かつ高速に広められることで生み出された危害の証拠は、セクション2で示したグレート・リプレイスメント理論によって生み出された危害の証拠と類似しています。このような理由から、少数派は、Metaが、陰謀論によって引き起こされる排除や差別から脅威にさらされている特定のマイノリティグループを保護することを決定した一方で、同様のリスクにさらされている他の人々を保護しないことは、差別禁止の原則やMetaが重んじる安全性および尊厳の価値観と矛盾していると考えます。委員会の少数派は、グレート・リプレイスメント理論に対するMetaのアプローチを、同社が人権保障責任に従ってモデレーションしている上記の他の陰謀論へのアプローチと区別する説得力のある理由を見出すことができませんでした。
上記と関連して、委員会の少数派にとって、ソーシャルメディア企業が直面しているより大きな課題は、個々のコンテンツではなく、大規模かつ高速で共有される有害なコンテンツの蓄積にあります。委員会は、「ヘイトスピーチによる危害が蓄積されていくことに対処するためのコンテンツモデレーションは、表現が暴力または差別を直接扇動していない場合であっても、一定の状況ではMetaの人権保障責任に則ったものとなる可能性がある」ことを説明しました(ズワルトピートの描写に関する事例およびインドのオリッサ州における異なる集団間の暴力の決定を参照)。2022年、CERDは、「(フランスで)特にメディアやインターネットにおいて、人種主義的で差別的な議論がいかに根強く広まっているか」について懸念を示しました。少数派にとって、グレート・リプレイスメント理論に関連するコンテンツが蓄積されていけば、「暴力行為がより容認されやすい、社会における差別を増殖させる環境が作り出されることになります」(ズワルトピートの描写に関する事例およびインドのオリッサ州における異なる集団間の暴力の決定を参照)。少数派は、UNGPsに基づき、「企業は弱い立場になったり疎外されたりするリスクが高いグループや人口に属する個人の人権に対する特定の影響に特に注意を払う必要がある」(UNGPs原則18および20)ことを強調します。上記のセクション2で述べたとおり、フランスにおける人種差別の主な被害者は移民、特にアフリカ系移民とその子孫です。フランスの国内治安総局長は、2023年のインタビューで、「グレート・リプレイスメント」を阻止するために行動をおこさなければならないと考える者を含む、過激派グループが同国に深刻な脅威となっているとの考えを示しました。
Metaは、陰謀論に関連するコンテンツをモデレーションすることは「許容できない量の政治的言論」を削除するおそれがあると述べていますが、委員会の少数派は、同社がその主張を裏付ける証拠やデータを提供していないことを指摘します。さらに、Metaは、これがグレート・リプレイスメント理論のコンテンツには当てはまり、例えば、陰謀論を広めていると理解できる、白人至上主義や反ユダヤ主義的なコンテンツにはなぜ当てはまらないのかを説明しませんでした。上記の理由を踏まえて、少数派にとって、Metaは、グレート・リプレイスメント理論を推進するコンテンツについて、(i)本決定で議論されている、この種のコンテンツの拡散から生じる危害を否定する、または(ii)この種のコンテンツをモデレーションすることによる保護されるべき政治的言論への影響が不相応であることを証明する十分な証拠がない限り、このようなコンテンツに対処するために同社のポリシーを見直す必要があります。相応な対応を実現するために、さまざまな選択肢の中でもとりわけ、Metaは、保護されるべき政治的言論に影響を与えることなくグレート・リプレイスメント理論の支持を公然と表明するコンテンツの削除を可能にするためのエスカレーション専用のポリシーを作成することを検討したり、グレート・リプレイスメント理論に明確に関与する主体をMetaの危険な団体および人物に関するポリシーに基づく暴力を誘発する陰謀ネットワークの一部として指定することを検討したりすることができます。
多数派は、特に当該コンテンツに「グレート・リプレイスメント」という言葉やその変形がないことを考えると、合法性、必要性、相応性の要件を満たしながら、当該コンテンツが違反となるようなポリシーが考案できるかどうか懐疑的な見方をしています。このようなコンテンツを、間接的な言及でさえも削除しようとすることで、保護されるべき政治的表現が大量に削除されることになります。文面上保護されるコンテンツは、発言者の身元、または憎悪に満ちたイデオロギーとの類似性のいずれかを理由に違反と判断されるべきではありません。
9. 監督委員会の決定
監督委員会は、コンテンツを引き続き掲載するというMetaの決定を支持します。
10. 勧告
透明性
1. Metaは、移民関連の議論と、移民のステータスに基づいて人々を標的とする有害な発言をどのように区別するかについて、ヘイトスピーチに関するコミュニティ規定の文言に詳細な説明を加えるべきです。これには、同社が憎悪に満ちた陰謀論を広めるコンテンツをどのように扱うかを説明することも含まれます。これは、Metaが憎悪に満ちた陰謀論の潜在的なオフラインでの危害に対処しながら、移民に関する政治的言論をどのように保護するかを利用者が理解するために必要です。
委員会は、Metaがグレート・リプレイスメント理論の文脈における移民に関する議論への同社のアプローチを説明する最新情報を公開し、透明性センターの目立つ場所にその最新情報へのリンクを掲載したことをもって、この勧告が履行されたとみなします。
*手続きに関する注記:
監督委員会の決定は、5名のメンバーからなるパネルにより準備され、委員会の過半数の承認を得ています。委員会の決定は、必ずしもメンバー全員の個人的見解を反映したものではありません。
本事例決定のために、独立した調査が委員会に代わって委託されました。また、委員会は、地政学、信用と安全、テクノロジーを横断的に扱うアドバイザリー会社であるDuco Advisorsによる支援も受けています。このほか、ソーシャルメディアのトレンドに関するオープンソース調査に従事する組織、Memeticaによる分析の提供も受けました。350を超える言語に精通し、世界各地の5,000の都市を拠点とする専門家を擁する会社であるLionbridge Technologies, LLCが、言語面での専門的知識を提供しました。
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